右腕の痺れ

顎関節症の話がいつ出てくるのか?確かにここまではまったく関係がないように見える。もう少し我慢して読んでいただきたい。

代理店に連れていかれた後、なぜか話がとんとん拍子に進み、そこからいただいた仕事を自宅で行うという生活が始まった。

かっこつければフリーのカンプ描きだが、フリーといっても名ばかりで仕事の依頼は月に1つか2つ。しかも夜中にいきなり携帯が鳴り、3日以内にイメージ画を10枚とか無謀な依頼も多かった。でも、一度も断らなかった。単価が良かったというのもあるが、月に数回とはいえ、普通に時給換算のバイトをしているよりもこっちの方がおもしろかった。自分にはまったく縁の無い世界を垣間見ることができたし、パソコンを覚えたてだったのでそれを使って仕事ができる、金になるというのは単純に嬉しかった。

現場の仕事をすることもあり、スーツを着て大阪に行かされることもあった。広告の仕事は大変な仕事だがやりがいがある。倍率が高く、花形と言われる所以が分ったような気がした。

広告代理店の人達は肩書きはサラリーマンだが、1人1人に与えられている権限がとても大きいと感じた。頭も体も限界まで要求される。あの体育会系的な空気が嫌いな人もいるかもしれないが、自分は好きだった。少なくとも、口先だけでかい事を言って、その実何もしないで遊んでる連中よりは数倍マシだ。本当にいつ寝ているのか分からないような勢いで仕事をしている人達だった。

そうこうしているうちに、本格的に右腕の痺れが始まった。気になりだしたのは工場での仕事を終えて半年ほど経ったころだろうか。右腕の手首がコキコキと鳴るようになった。箸が使いづらい。二の腕の筋肉、三頭筋がげっそりと落ちた。肘の部分の骨がくっきりと出てきた。ここにこんな骨があったのか?と思うほど腕が痩せてしまった。

それまでどちらかというと筋肉質だったので、なおさらそう感じたのかもしれない。文字を書いたり、指先を使った細かい作業が次第に困難になってきた。

初めのうちは、いきなり机仕事に移って運動しなくなったのでそのせいだと思っていた。日常的に体を動かす生活に戻せば、痺れや痛みも収まるだろうと思っていた。しかし、どんなに運動しても痺れが消えない。

通常、運動をして筋肉に負担をかけると、それに応じて筋肉は膨張し、休ませると回復して強化される。健康な体の人であれば、それを繰り返すことによってある程度まではそれなりの筋力をつけることができる。

定期的に運動をしていて、ウェイトもやるような人間だったのでこの疲労感は変だなと感じた。それまでの感覚と全く違っていた。ただただ辛い。だるい。疲れが抜けないのだ。除々に運動する習慣もなくなっていった。

体にあまり負担をかけずに、座ったままという生活が続いた。こんな生活はおよそ初めての経験だった。机に向かって集中するというコンディションを優先させると、そうせざるを得なかった。

昔とまったく逆だ。定期的に体を動かさないと集中できなかったのが、そのころは運動するとその後数日間だるくて動けない。横になったままというような状態だった。

 



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