マウスピース

痺れとだるさに耐えながらの生活が続いていたある日の事、思い付いたように5年前にある歯科医院で作ってもらったマウスピースを引っぱり出してきて、付けたまま寝るという生活をしてみた。

なぜマウスピースを持っているのか。実は5年前、工場勤めをする1年ほど前に、一度顎が鳴るということで地元にある顎関節症について研究しているという歯医者さんの所へ行き、マウスピースを作っていただいた事があったのだった。

「あなたのは歯ぎしりが原因です。マウスピースをつけて寝てください」と言われ、作ったものだった。歯ぎしりをしているという自覚はなかった。顎が少し痛い、鳴るというくらいでそれほど困っていたわけではなかったので、それきりその歯医者には行かなかった。

2ミリ厚のマウスピース・・・5000円位で作ってもらえた

マウスピースは違和感があって、付けたまま寝るという習慣も身に付かないまま、引き出しの中にしまわれていたのだった。作った事も忘れていた。

それ以後、顎関節症という言葉を聞く事はあっても、頭の隅に「顎関節症は治らない。誰でもみんな噛み合わせはずれている。顎が鳴るくらいなら大丈夫」といった情報がインプットされていて、顎の事も意識しなくなっていた。顎と全身の関連性なんて考えた事もなかった。

しかし、なぜか思い立ったようにマウスピースを付けて寝るという生活を始めてみた。すると、幾分目覚めがいいのだ。付けずに寝ると、目が覚めた瞬間から足や手の痺れが始まる。付けて寝ると、それが幾分和らいだ気がした。

マウスピースをするようになって何週間か経ったある日の事。本屋で偶然ある一冊の本を目にした。

その本には、歯医者でのずさんな虫歯治療が顎関節症を引き起こす原因になるといった内容が書かれており、自分にとっては衝撃的な本だった。もしかしたら、この体の痺れも歯と関係があるのかもしれない・・・。

確かに、マウスピースを外すと、左側の奥歯の当たりが悪いように思えた。そこで、気軽な気持ちで普段お世話になっている地元の歯医者に予約を入れた。

「5年前にある歯科医院で作ってもらったマウスピースをしています。使用している時としていない時で状態が変わるので、噛み合わせがおかしいのだと思います」そんな感じで先生に説明をした。

しかし、いつもは丁寧な対応をしてくれる先生が何やら口籠っている。なんとなく面倒臭さそうな雰囲気だった。そして「噛み合わせというのは、顎が最も後ろに下がった位置が正しい位置です」と言い、椅子を倒して下顎を押された。

それこそ体重をかけて両手でぐいぐいと下顎を押された後、その位置で調整を始めてしまった。

後で分った事だが、この下顎が最も後方に下がった位置が正しい噛み合わせの位置というのは古い考えらしい。その時はそんな事を知る由もなく、何の疑いも持たずにされるがままでいた。

とりあえず違和感のあった左側を何カ所か削っていただいた。噛み合わせの調整というものを、ものすごく気軽に考えていた。

 



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