スプリント療法

次に、ある雑誌で取り上げられていた歯科医院に行ってみることにした。後で知ったのだが、ここの先生はかなり有名な方だった。なんとか通える距離だったので、すぐに電話をして予約を入れた。

このころは削られた歯医者といい、やたらと治療費の高い歯医者といい、あまり良い目に遭っていないので、そうとう歯医者不信になっていた。

ここもダメだったらどうしようか・・・。また一から探さなければならない。病院巡りは懲りていたし、体力的にも精神的にも、かなり追い詰められていた。

雰囲気は普通の歯科医院だった。ただ、診察台が沢山あって従業員の方も多い。患者さんもけっこう来ていて、繁盛している感じだった。

受け付けの所に、そこの先生が書かれた本が何冊か置かれていた。良い歯医者かそうでないかを見分ける判断材料は少ない。少しでもどんなことをしているのか知ろうと思い、ざっと本に目を通してみた。

噛み合わせと全身症状について、症例を元に細かく書かれている。実際の治療法にも触れており、とても好感を持った。御本人の性格は分からないまでも、理念と哲学を持って歯科医療に取り組まれているな、と感じた。ここなら信頼してもいいかもしれない。本を読む限り、そんな印象を持った。

そこでの治療はスプリントというレジンのプレートを使用したものだった。患者さんの姿勢や顔の形、バランスといった視覚的に見て分かる変化を重視した診療を行っていた。

実際見ていただいて、自分は左側の低さ、姿勢の傾きを指摘された。これは前に行った歯医者でも指摘されていた。ここでやっと、全身に出ている異状と顎や歯を関連づけた治療を開始することができたのだ。

初日に型を取り、姿勢等の検査をした。次回にスプリントというものができるという。初回の検査やスプリント作製だけで10万以上かかった。だいたいの治療費の総額は50万から70万位かかるという。ここも保険適応外なのだ。しかし、前のメタルプレートだけで300万よりはマシだ。

2回目に行った時に、さっそく出来上がったスプリントを付けてみた。初めて付けた感触は「?」

硬くて少し薄いマウスピースという感じだ。かなり噛み合わせの位置が高くなる。しかも、噛んだ時の重心は右側にあった。

「どうですか?付けてみた感触は」技工士の方に聞かれる。

「これは・・・どういった経緯でこういう形になったんですか」

「患者さんの顎に合わせて、3次元的に歪みを取ることを考慮して作られています」

「どう考えても右が高い気がするんですが・・・」

「え?右ですか。右じゃ逆ですね。それはいけない」

すぐに削って調整をしていただいた。低い方の左に重心がいくようになり、幾分マシになった。

レジンというのは削ったり足したりということが比較的簡単にできるようだ。これで少しづつ噛み合わせの位置を調整していくらしい。

食事の時も寝る時も付けたまま。24時間付けっぱなしということだった。そうやって少しづつ顎の歪みをなくしていく。顎の筋肉のリハビリになるということだった。口の中に付けるギブスと考えていいのかもしれない。

こうしてスプリントを一日中付けたままという生活が始まった。入れ歯になった気分だ。やったことはないが、矯正も多分こんな感じなのだろう。 慣れるまでかなり違和感があった。

 



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