不良なインレーを取り除き、仮の詰め物をすることでとりあえずの安定は保たれた。ここからさらに正しい位置に顎をもっていく調整が始まる。 スプリントというのは噛み合わせを一時的に上げることにより、咀嚼運動に必要とされる筋肉を安定させる効果があるようだ。ここでは顎のリハビリという言葉を使われていた。 だんだんと、調整の際にあれこれ指示を出さなくなった。スプリントの形状に以前ほど神経を使わなくなり、調整されている方に全部お任せしようという気になれた。ある程度安定すると微妙なズレは適応してしまうのかもしれない。 スプリントの形が安定してからの回復ぶりは目覚ましかった。まず顎や額にあった吹き出物が消えた。あまりにキレイさっぱりとなくなってしまったので驚いた。次に顎の骨が尖ってきた。触ってみてエッジが立ってきたのが分かる。頭の骨と骨の継ぎ目が盛り上がってきて、極端な話だが頭が尖ってきたような感じだった。 顎の周りやこめかみの筋肉が付き始め、顔がふっくらとしてきた。鏡で見ても顔の左右がシンメトリーに近付いてきたのが確認できた。手足が以前ほど冷えなくなり、体力的にも疲れにくくなってきた。 それでも完璧というわけではなかった。一時的に合っているスプリントでも、しばらく経つと必ずどこか当たりが悪くなってくる。感触がいいなと思っていると割れてしまう。 季節は梅雨に入っていた。自分の場合、なぜか雨のふる直前に体がだるくなり、何もする気が起きなくなるという体質になってしまっていた。だから、湿気の多い間、何もせずにボーっとする日が続いた。本当に何もしなかった。できなかった。しかし、今までの何年間というスパンを考えると原因が特定できている分だけマシだ。ひたすら我慢していた。 このころからネットにつなぐようになり、ネット上での情報収集を始めた。顎関節症について書かれているサイトは思ったほど多くなかった。顎関節症治療をしている歯科医院のサイトはいくつかあったものの、患者個人が作ったサイトが見当たらなかった。 いろいろな意見があったが、今のところ顎関節症というのは原因がはっきりしていない。治療法も確立されていないらしい。そのせいか、こと顎関節症についてという議論になると、収拾のつかなくなっている掲示板が多かった。本当に欲しい情報はネット上にもなかった。
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