奇跡の3日間

スプリント治療を始めて5ヶ月。梅雨が明け、夏もあっという間に終わった。今年の夏は暑かったせいもあるが、歯医者に行く以外は一歩も外に出なかった。海やプールで一度も泳がなかった夏は今年が初めてだ。

それはある日突然やってきた。朝起きてみると、左膝の関節痛が無くなっていた。普段、左足は股関節から土踏まずまで痺れていて、いわゆる座骨神経痛のような症状があった。ひどい時は椅子に座れなかった。

それがある日目が覚めると無くなっていた。とりあえず飛び跳ねてみた。垂直に飛ぶと、着地のショックが腰と背中を伝って後頭部に抜けていく。当たり前の動きなのだが、久しく忘れていた感覚だったので新鮮だった。

その時、多分スプリントが最もバランスよくフィットしていたのだと思う。噛み合わせた時の感触は左右均等で、噛んだ時の力は鼻筋と眉間を通って額に抜けていった。首も安定していた。

体力が回復し始めてから、短い距離を歩いたり自転車に乗るくらいの運動はたまにするようになっていた。最低限の筋力は保たれていた。そこで、少し走ってみることにした。いきなり走るのはまずいかなと思ったが、体がむずむずしていた。

ゆっくりと15分ほど走った。ランニングなんて何年ぶりだろうか。でも走ることができた。筋肉ではなくて心肺機能の方が先にギブアップした。

こんなに顎の位置が全身に影響を及ぼすのかと改めて思った。全身の神経や筋肉はけして個々に動いているのではなくて、全て関連性がある。それを身を持って体験することができた。

ともかく、半分寝たきりのような生活をしていたのがいきなり走り出した。それが3日間続いた。3日目の夜にスプリントが割れてしまい、体調もまた元にもどってしまった。

調子の良かった3日間、同じコースを走っていた。ここを走ろうと決めたわけではなく、なんとなく気の向くままに走ったコースだった。その途中に用水路があって、水が合流している場所があった。

2日目と3日目には、その用水路の鉄格子の上で寝そべって休憩した。そこでは小さな河の流れのような音、水が沸き出すような音がしていた。そこにいると気分が良かった。単なる偶然かもしれないが、どうやら体がその場所を目指して走っていたような気がしている。

木の多い場所、近所にある小さい山や公園にもよく行くようになった。リタイアした老人のような生活だが、やはり自然は体にいいエネルギーをくれるような気がする。

シックハウス症候群になってしまった人達は自然環境の中に身をおいてリハビリをするらしい。北海道などでは自治体レベルで症状のある人達を受け入れている所もあるようだ。

シックハウス症候群の原因は科学物質という外因性のものだから、顎関節症とは同列には語れないかもしれない。慢性的なだるさや頭痛、皮膚の炎症などといった症状が出るらしいが、そういう話を聞くと、まったく人事だとは思えない。

割れてしまったスプリントを直してもらった際、体調が元に戻った日が数日間あったことを伝えると、では現在のスプリントの位置で次の段階に移りましょうということになった。

それまで上に付けていたスプリントを材質を変えて下に付け替えるという。そして、今度のは以前と違って外れないように歯に接着してしまうということだった。

それまで使用していたスプリントを真ん中で切り、左右のバイトをとる。こうして、次回は下に付けるタイプのスプリントに変えるということになった。

 



私の場合メニューに戻る